■IT社会基盤の安全・安定化へ産学官連携による雷害対策の推進を
〜ネットワークの高度化で増大した情報社会基盤リスク〜

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授 
妹尾堅一郎

「IT社会のリスク」とは何か。通常、浮かぶのは、クラッカー(ハッカー)による侵入ウイルスの蔓延、あるいはプライバシー情報の漏洩やチャットサイトにおける誹謗(ひぼう)中傷、さらには「出会い系サイト」などの怪しげな問題ではなかろうか。確かに、これらは情報社会では重要な問題である。しかし、それだけではない。

■意外に気付かない情報社会リスクの中の「自然現状の起因するIT特有のリスク」

 今、リスクの原因について「自然現象・・・人為事象」という軸を引き、その一方でリスク自体の特徴について「IT特有・・・一般的」という軸を引いてみよう。 両者を交差させマトリクスを作ると、4つの象限ができる。(図1参照)

 このフレームワークを使うと、クラッカーの侵入やウイルスは「人為事象・IT特有」の象限に位置付けられる。一方、プライバシー情報漏洩やサイトでの誹謗中傷は昔からあったが、ITの普及で容易になってしまったものだ。これらは「人為事象・一般的」に入るだろう。
 ここで、「人為事象・IT特有」に位置するリスクを「情報社会システムリスク」、「人為事象・一般的」に位置するリスクを「情報社会運営リスク」と呼ぶことにしよう。後者の最大のリスクは、テロによるネットワーク破壊である。近時、主要なデータセンター、ネットワークサーバーが東京のある場所に集中し始めていることの危険性を指摘しておきたい。
 では、自然現象が起こすリスクは何か。例えば、地震によってパソコンが落ちたり、データセンターの建物を揺るがすといった事態は「自然現象・一般的」に位置付けられる。これを「情報社会災害リスク」と呼ぼう。では、自然現象に起因し、ITに特有なリスクというものは何か。実は、このリスクが近時、増大しているのだ。その点をほとんどの人は気付いていない。

■ネットワーク・チップ高度化で雷害リスク増大

 「自然現象・IT特有」に位置するリスクの最大のものが「雷害リスク」である。情報社会になって、特に都市部では、電話線、電力線に加え情報ネットワークがビルの内部にまで密に敷き詰められてきた。これらの上を誘導雷が這って瞬時にルーターやサーバー、家庭ではモデムなどを破壊してしまう。雷が「ネットワークを踊らせる」のだ。
 要するに、ネットワークがしかれれば敷かれるほど、また、チップが高度化すればするほど、雷害リスクは増大するのである。これらは、まさに「情報社会基盤リスク」と呼べるのである。

<図1>
■雷害対策遅らせる「統計の未整備」「法整備の遅れ」

 雷害リスクの啓蒙・普及を軸に、情報基盤担当者の雷害リスク対策の情報交流を行うことを狙いに、私は11月に『雷害リスク低減コンソーシアム』を立ち上げる予定だ。この準備をしている中で、3つの問題があることが分かった。

 第1は「統計の未整備」だ。多くの関係者は「雷害が急増している」点について憂慮しているが、いずれも全体を見渡せる統計がなくて困っている。雷害の推移を調べようとしても、総合的資料、公的資料が未整備なのだ。気象庁にせよ、電力会社にせよ、保険会社にせよ、電話会社にせよ、それぞれの業務範囲内の被害しか把握していない。
 
 第2の問題は「法整備の遅れ」。雷害防止関連のJIS規格などは昭和20年代後半のものがいまだに基本となっている。
 
 第3は、IT研究者や実務家の多くが、この「高度情報化社会のアキレス腱」を知らないことである。情報基盤自体のリスクを知らずにリスクマネジメントを怠ると、いくらネットワークを構築しても、それは砂上の楼閣になってしまう。
 
 いずれにせよ、「雷害リスク」は情報社会基盤の脆弱さの象徴とも言えるのだ。IT社会の基盤を「安全・安心・安定」化させるためにも、雷害への関心を高め、産学官公民連携による対策推進を進めたいものである。


週刊時事IT情報 2002.10.14号 P.13(時事通信社発行)を参考に運営スタッフが作成




慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授 妹尾堅一郎

慶應義塾大学経済学部卒業後、大手化学メーカー(人事担当、マーケティング担当)を経て、渡英。英国国立ランカスタ−大学経営大学院システム・情報経営学博士課程修了。92年帰国、産能大学経営情報学部助教授。99年より慶應義塾大学助教授、同大学知的資産センター副所長、(株)慶應学術事業会代表取締役、00年(慶應義塾)丸の内シティキャンパス(MCC)総合プロデューサー(校長)、を経て現職。「雷サミット」の仕掛け人であり、総合プロデューサーである。

<関連Webサイト>慶應義塾大学妹尾研究プロジェクト